よくわからないまま入居してしまう
何かと先行きが見通せないご時世、なるべく支出を抑えたいと考える人は多いだろう。
残業代が稼げない、ボーナスもカットされた、売り上げがピンチだ、雇い止めにあったという人も
いるかもしれない。 だが、無情にもやってくるのが「請求」だ。電気・ガス・水道などの公共料金
使用したクレジットカードの請求、固定資産税などの税金…これだけでもうんざりするのに、サービ
スを享受している実感のない利用費まで請求されるから、やりきれない。
その代表例が、マンションなどの「管理費等」である。
公共料金が改定される際は、基本料金と従量料金の算定方法となる通知が郵送などで届くことが
一般的だ。選択の余地がないわけではないが、電力会社やガス会社が一方的に決めた料金体系に従
うしかない。
一方で、どれだけ使ったかで料金が決まる以上、当然のことながら節約の方法はいくらでもある。
では、同じように固定費として扱われることが多い、マンションの管理費等はどうだろうか。
もちろん、管理費等の変更がある際は、部屋のタイプに応じて、何月の支払いから、いくら増減し
ますという通知は届く。 しかし、何に使われているか、一言一句、入居時などに説明されたこと
がある人はほぼいないと言っていい。あったとしても、契約時や入居時はほかの説明なども多く、
管理費等の使用用途まで、考えを巡らせた人は少ないだろう。
そもそも管理費とは、文字どおりマンションの管理・維持に使われている。たとえば、共用部分
の電気や水道など経常的に生じる経費、管理組合が加入している保険料、なかでも管理会社に支払
う管理委託費は大きな支出を伴う。
管理委託費がほとんどを占める
この管理委託費のなかには、一般的に総会・理事会などに出席するフロント担当者の費用や管理
員の給与、エレベーター、消防用設備等の点検費用、定期清掃代などが含まれている。
管理委託費は、マンションの規模や設備の種類、数によっても変わるが、戸当たりに換算すると
月額13,000円~15,000円前後が相場とされる。 また平成30年度マンション総合調査によると、
駐車場使用料等からの充当額を含む管理費の1戸あたりの平均は月額15,956 円とされ、総戸数が大
きくなるほど低くなる傾向にある。また、単棟型では 16,213 円、団地型が 14,660 円となっている。
駐車場使用料等からの充当額を除くと、月額の戸当たりの管理費の額の平均は 10,862 円。 形態
別では、単棟型が 10,970 円、団地型が 10,419 円である。 つまり、毎月コツコツと支払ってい
る管理費のうち、管理会社へ支払う管理委託費が占める割合がいかに多いかお分かりいただけるだ
ろうか。
また、修繕積立金とは、大規模修繕工事を実施する際に必要となる多額の費用を確実に確保する
ため、管理費とは別に毎月積み立てるものをいう。大規模修繕は、数千万円から数億円規模のお金
がかかるので、将来に備えてコツコツと積み立てているわけだ。 外壁補修、屋上等の防水工事、
鉄部塗装、給排水管の取替えなど、一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕や、不測の事故その他
特別の事由の修繕などに使われる。 そしてマンションでは、その施設やサービスを使用する人だ
けが負担するというパターンの使用料もある。
管理費と「管理費等」の大きな違い
具体的に言えば、駐車場や駐輪場を使用する人が負担する「駐車場使用料」「駐輪場使用料」の
ほか、専用庭(1階部分の区分所有者が使用できる庭)がある住戸の人が毎月の使用料を負担すること
もある。
タワーマンションなどでは、ゲストルームやスパ、ライブラリーなどの施設の使用料の負担があ
ることもよくある。これら管理費や修繕積立金などを総称して「管理費等」と呼ばれる。
そもそも、管理費等の負担額は、それぞれのマンションの管理規約や使用細則が根拠になってい
ることが多い。もし管理組合の収入が潤沢であれば、理事会などで検討をして総会の決議を受ける
ことで「一定割合の値下げ」または「一定期間徴収をしない」といった措置をとることも可能だ。
実際に、とあるマンションでは、新型コロナの感染拡大で職を失うなど、生活苦が続く区分所有
者が多くいるとの声に、組合員にアンケートを実施し、総会決議のうえ修繕積立金の徴収を1年間
廃止するという運営をしている管理組合も存在する。
また、マンションの管理費は、地域差がかなり大きい。国土交通省が公表している平成30年度
マンション総合調査のデータによると、関東が最も高く月額12,149円。最も低い中国・四国では
月額9,210円と、月額にしておよそ3000円、年間では36,000円もの差がある。
では、各マンションの「管理費等」の根拠はどうだろうか。
各区分所有者が所有する部屋の広さ(専有部分の床面積の割合)に応じて管理費等が設定されてい
るマンションが多い。管理費等を多く支払っているからといって、税率のように負担割合の利率は
変わらない。
実質的なジム使用料が10倍違う?
負担割合の利率が変わらないことは一見、公平に見えるが、使用頻度を考えればそうではない。
たとえば、70戸の高級マンションに、40平米1LDKにご夫婦で住むAさん宅と、70平米3LDKに家
族4人で住むBさん宅があるとする。
このマンションでは、24時間無料で使用できるスポーツジムが共用施設にあり、Aさん宅はご
夫婦でほぼ毎日のように館内のスポーツジムを使用する。Bさん宅は、週に1度ご夫婦で利用する
かしない程度だという。
「平成30年度マンション総合調査」によると、戸数51~75戸の管理費の月額戸別は、10,386円
1平米当たりの月額管理費は137円とされる。それから計算すると、
———-
・Aさん宅(40平米 1LDKご夫婦2人)の場合
一回あたり1人約110円
70戸、1平米当たりの月額管理費は、137円×40平米=5,480円
5,480円÷25日(回)=約219円
219円÷2人分=1回約110円
・Bさん宅(70平米 3LDK 家族4人)の場合
一回あたり1人約1,200円
70戸、1平米当たりの月額管理費は、137円×70平米=9,590円
9,590円÷4日(回)=約2,398円
2,398円÷2人分=1回約1,200円
———-
という計算になる。なんとスポーツジム実質1回の使用料に約10倍もの金額差が生じていたのだ。
もちろん、管理費はスポーツジムの運営だけに使われているわけではないし、逆にBさん宅は、
Aさん宅は使用しないキッズルームのヘビーユーザーかもしれない。それぞれの事情がわからな
いこそ、不公平感が生まれ、隣人トラブルに発展する可能性もあるというわけだ。
平等か、不平等か、悪平等か
1階に住む住民がなぜエレベーターの保守費を払わなければいけないのか、車を所有しない住
民が機械式駐車場の維持費負担を強いられるのはなぜなのか。こう言った「不公平論争」に近い
ものを、「ジムの実質使用費問題」に感じる。
こうした問題を解決するため、ジムやキッズルームの使用は1回いくらの使用費制にするか、
近年流行りの「サブスク」のように月額更新制にするというのもひとつの方法論だ。
何が公平かという議論は尽きないし、最終的には管理組合での検討による判断によるのだが、
たとえば、管理費の支払い総額に応じて、スポーツジムなどの使用回数を設定・制限するとい
うのも選択肢のひとつかもしれない。
マンションでもSuicaのように、タッチするだけで開閉ができるICカードキーの導入が増え
ている。このICキーで施設の使用回数を管理し、一定回数を超えた世帯は、追加の使用料を
管理費等として徴収するといった具合だ。 日本の多くのマンションでは、管理費等は、共
用部分の使用頻度や部屋の階数などによる違いはなく、広い部屋の所有者が多く負担している
ことが多い。
管理費等の設定額や運用方法は、管理組合で検討し、総会の決議を得られれば変更できる
ということを忘れないで欲しい。
「現代ビジネス」